栃病薬が誇れる1冊『 TABLETS INDEX 』

郡司 稔

昭和30年の後半は散剤の時代から急激に錠剤・カプセルの時代に移行していった時代であった。散剤の多いその当時は医師、薬剤師を信頼していたのか、薬を持参して『どのような薬なのか』と聞いてくる患者さんが少なかった。ところが錠剤・カプセルの時代に移行してからは薬(錠剤・カプセル)を持参して問い合わせてくる患者さんが急増した。しかし、当時の錠剤・カプセルは刻印・識別する記号のあるものは少なく、その鑑別は困難極まる状態であった。

済生会宇都宮病院ではその当時、ノギスで測った錠剤の直径、厚さをメモ的に記録して残していた。そのメモを見て患者・医師からの問い合わせに応じていた。錠剤鑑別をすることが病院薬剤師の一つの仕事になっていくにつれ、済生会宇都宮病院内でまとめてみようかという話が岡本保治薬剤部長よりあった。錠剤鑑別をすることで医療に貢献するのだという気持ちと病院薬剤師としての必要性を感じ部員は賛同した。

その鑑別方法は市販錠剤、カプセル剤をノギス、色等で物理的観察により察知する方法と簡単な化学試験で確認する方法をとった。具体的には薬品名、含量、色、外型、直径、厚さ、重量、割った状態(色、味、臭)、用途、備考(試験法)を1つひとつ丹念に調査をした。そして昭和40年3月に全国最初の錠剤鑑別事典が完成した。

昭和40年7月に栃木県病院薬剤師会(安達一彦会長)として錠剤鑑別辞典(TABLETS INDEX)を初版発行したがその反響は全国に及んだ。激励、感謝のお言葉をいただき、編集にたずさわった編集委員は感激に酔った。栃木県を初め各県警察の鑑識課関係からは犯罪捜査にも一役買うとして感謝の手紙が寄せられた。8月には下野新聞に『錠剤鑑別法トラの巻』という表題で報道された。

その後、栃木県病院薬剤師会として岡本保治編集委員長、編集委員(池田正信氏、郡司稔氏、越野芳明氏、橋本圭市氏、安達徳三氏、塚原孟氏)を選出し、昭和42年6月には第2版を発行した。当時、1週間に2~3回旅館に泊まり込みで行ったが、全国の病院薬剤師のために行っているのだという使命感をもっていたため苦にはならなかった。

その間、東京都診療所薬剤師会から同じ昭和42年に、又46年に『TABLETS GUIDE BOOK』が初版、2版と発行された。その後、両薬剤師会から2っのグループが別々に行うことより日本病院薬剤師会の1グループで行えば努力を無駄なく集中し効率良くできるのではないかという提案があり、昭和46年以降、日本病院薬剤師会の錠剤鑑別法委員会の中で行われることになった。その委員会委員に栃木県として岡本保治氏(済生会宇都宮病院)と瓦井尚雄氏(上都賀総合病院)、協力者として10名(済生会宇都宮病院4・上都賀総合病院3・下都賀総合病院3)が入り総勢28名で編集することになった。

日本病院薬剤師会編集として昭和48年7月、錠剤鑑別辞典(TABLETS INDEX)初版、昭和51年11月に改訂版、昭和55年7月に第3版、昭和59年5月に第4版を発行している。4版では製薬メーカー169社、対象品目数約5000種を収載し形状・マーク・識別コードなどから鑑別できようになった。

今では『お医者さんからもらった薬のわかる本』などの多くの辞典が世の中に出回り、患者さんが利用するほどの人気になっている。日本で最初に手掛けた栃木県病院薬剤師会の『TABLETS INDEX』こそ元祖錠剤鑑別辞典であり、わが栃木県病院薬剤師会が誇れる1冊である。

創立五十周年記念誌 栃木県病院薬剤師会 平成13年6月 より掲載